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枯れることなく、何度でも佳奈子の目には涙が浮かぶ。
妊娠が発覚してから今日まで、一体どれ程の涙をこうして流してきたのだろう。
「………佳奈子さん」
「心配しなくても、楓に責任取ってなんて言わない。……自分の尻拭いは、自分でするから」
「佳奈子さん!」
車を降りた佳奈子は、そこで一度楓を振り返った。
涙の溜まった目で楓を見つめ、口角を上げて何とか笑顔を作ろうとする。
それがかえって痛々しく、楓の胸を激しく打った。
「楓にはホントに感謝してる。……あの日楓に会ってなかったら、私きっと自棄になってどうなってるかわかんなかった」
「………………」
「迷惑かけっぱなしだったのに、好きだって…、付き合おうって言ってくれて、ホントにホントに嬉しかった」
まるでもう最後の別れのような言葉に、楓は焦って身を乗り出す。
無意識に佳奈子に向かって手を伸ばしたが、それを躱すように佳奈子は一歩後ろへと下がった。
「バイバイ、楓。……元気でね」
ポロポロと涙を零しながら、佳奈子は笑顔で手を振った。
直後きゅっと唇を噛み締めたかと思うと、何かを断ち切るようにして勢いよく踵を返して走り始めた。
「ーーーーー佳奈子さん!!」
走り去って行く佳奈子の背中に、楓は大声で叫ぶ。
だが佳奈子は立ち止まらず、そのまま公園を出て行ってしまった。
「……………」
追い掛けることのできなかった自分に、楓は激しい苛立ちを覚える。
………だが、今追い掛けたとして、佳奈子に何を言えばいいというのだろう。
ただただ混乱しているだけで、まだ自分の中で何も答が出ていないというのに……。
(………佳奈子さん……)
持って行き場のない感情を持て余して、楓は強く助手席のシートを拳で叩き付けた。
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