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(………佳奈子さん、今も泣いてるのかな……)
前の男に騙されていたとわかった日も、佳奈子は一人橋の上で酒を飲んでいた。
おそらく今回も、誰にも相談できずに一人で抱え込んでいるに違いない……。
その時、楓の目にふと笹原が置いたレセプトの束が映った。
笹原が産婦人科病棟の担当だったことを思い出し、椅子ごと笹原に向き直る。
「………やっぱり、今って不妊治療の患者さんとか多いんですか?」
「え?」
指サックを嵌めていた笹原は、驚いたように楓の顔を見返した。
「どうしたのよ、急に」
「………いや。……たまたまこの間そういうニュース見たから」
苦しい言い訳を楓はしたが、笹原はうーんと言って首を捻った。
「うちは出産する為に入院してくる人がほとんどだから」
「………あ、そっか」
「でも、外来は多いみたいよ、やっぱり」
笹原はレセプト用紙を一枚繰りながら頬杖をついた。
「原因はさまざまみたいだけど。……欲しいとこには出来なくて、欲しくないところに出来たりするから世の中不公平よねー」
何気ない笹原の言葉に、楓はドキリとした。
誰も望んでいない子供だと言った佳奈子の言葉が胸に蘇る。
「………あの。……自然妊娠がほぼ不可能だって言われたのに、ひょっこり妊娠したとしたら……笹原さんはどうしますか?」
「どうするって……産むに決まってるじゃない」
驚くほど笹原はケロリと答えた。
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