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「え。……産むんですか?」
「そりゃ産むわよ。欲しかったのに出来なくて、それが奇跡的に出来たんでしょ?」
「………あ、いや」
どうやら笹原はさっきの不妊治療の流れで、楓の話を既婚者の立場で考えているようだ。
楓は慌てて手を振った。
「そうじゃなくて。……未婚の場合、です」
「え?」
「卵巣機能不全って診断されて、自然妊娠はほぼ不可能って言われた未婚の女性だった場合です」
「………………」
「あ、もちろん、結婚とかまるで考えてないのに、です」
するとそこで笹原は椅子を回転させ、体ごと楓に向き直った。
あからさまに怪訝そうな目を向けてくる。
「なんだか、例え話にしては随分具体的ね」
「え」
「誰かそういう人でもいるわけ?」
ジーっと舐めるように下から見上げられ、楓は思わずうっと言って目を逸らした。
「………いや、その。……ゆ、友人の話です」
「………ふ~ん。友人ねぇ……」
態勢を元に戻しながら、笹原は疑わしげな声を出した。
「てゆーか、結婚の意思がないってどういうことよ? 付き合ってた相手じゃないってこと?」
「…………それは」
さすがに詳しい事情は話せず、楓は言葉を濁した。
その様子を見て笹原は肩をすくめる。
「詳しくはわかんないけどさ。……まあそんな診断下されてたんなら気を抜いちゃうのもわかるわよ。……でもさ、やっぱり無責任よね。……女も男も」
さばさばした物言いに、楓の胸はズキッと小さな音をたてた。
「結局こういう問題が起きた時に泣くのは女なのよ。……体も心も傷ついてさ」
「………………」
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