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すっかり陽も落ちきり、ようやく気持ちを落ち着けた二人はそのまま楓の部屋に入った。
締め切っていた室内はムッとするほど暑く、あっという間に肌が汗ばんでくる。
楓は急いでクーラーを付け、雑然としていた部屋の中を簡単に片した。
「………さて、と。じゃあ、何から話そうか」
冷たい麦茶をテーブルの上に置き、楓は佳奈子の向かいに腰を下ろした。
「決めなきゃいけないこと、いっぱいあるよね」
「…………うん」
「住むところに、結婚式に。……はぁ、大変だなぁ」
楓は笑いながらそう言ったが、佳奈子はじっと探るように楓の顔を見つめた。
躊躇いがちに、ポツリと口を開く。
「いきなりこんなこと聞いてごめんなさい」
「え?」
「楓……、貯金いくらぐらいあるの?」
直球の質問に楓は軽く面食らったが、結婚を決めたのだからそれは大事な問題だ。
楓はおもむろに立ち上がり、収納ボックスの引き出しを開けた。
そこから通帳を取り出し、佳奈子の前にそれを置く。
佳奈子はそろりと楓の顔を窺った。
「見て、いいの?」
「どーぞ」
楓が頷くのを見届けてから、佳奈子はゆっくりと通帳を開いた。
「……………」
数字は入金の欄のみに記されていて、どうやら貯金専用の通帳らしい。
残高はざっくり200万ほどあり、楓の年齢にしては頑張って貯めているほうだと佳奈子は思った。
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