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「………すごいね、楓。若いのにしっかり貯金してて」
「いや、俺、趣味とかないから」
決まり悪そうに笑い、楓は頭を掻いた。
佳奈子は真面目な面持ちで楓に向き直る。
「私は、100万ぐらいしかないの。給料もともと安かったし、交際費に結構使ったりしてたから……」
「…………そう」
「だから私、結婚式はしなくていい」
キッパリとそう言い切った佳奈子を、楓は驚いて見つめ返した。
「え、で、でも……」
「子供産まれたら、やっぱりもう少し広い部屋に住みたいし、子供のことにお金かかるし…。優先順位考えたら、結婚式は必要ない」
「……………」
佳奈子の瞳は力強く、意思に揺るぎは無さそうだった。
だがそれが、楓はひどく切なく感じてしまった。
「いいの? 女の人って、結婚式でウェディングドレス着るのとか、夢なんじゃないの?」
「……………」
佳奈子は俯いて一瞬唇を噛み締めたが、すぐに顔を上げて首を横に振った。
「いい、大丈夫。生活のほうが大事だし」
「……………」
「だから、婚約指輪もいらない。結納もしない」
何かを断ち切るように、佳奈子は早口でそう言った。
言葉を無くし、楓はただ佳奈子の顔を見返すしかなかった。
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