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以前、家を訪れた時に会った佳奈子の母親の顔が、楓の脳裏をふと過ぎった。
佳奈子と面差しのよく似た、少し気の強そうな……。
「………それで、いいのかな」
「え?」
「ご両親、がっかりなさるんじゃないかな」
しばらく考え込んだあと、楓はポツリと呟いた。
佳奈子は思わず言葉に詰まる。
「親ってさ、娘が産まれた瞬間に、嫁に行く時のこと考えてしまうって言うよね?」
「……………」
「佳奈子さんの花嫁姿見るの、楽しみにしてるんじゃないかなぁ……」
両親の顔が頭に浮かび、佳奈子はきつく唇を噛み締めた。
膝の上でギュッと両拳を握りしめる。
「………でも、しょうがないじゃない。……生活していくには、何かを犠牲にしなきゃいけないんだから」
「…………」
「住む場所も、子供にかかるお金も削れないんだから、結婚式諦めるしかないじゃない」
睨むように鋭い目になった佳奈子を見て、楓はそっと苦笑した。
強く握りしめている佳奈子の手を、優しく包み込む。
「まぁそれは、後にしようか。最悪、写真だけって手もあるし」
「……………」
「何よりまず、お互いの親に話すことが先決かな」
少し物憂げな顔をした楓を見つめ、佳奈子は小さく頷いた。
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