理想と現実

10/15

222人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「楓~~~~」 「な、何。どうしたの」 「大好き、楓」 好きの気持ちが溢れだしてしまい。 また、新婚旅行の行き先なんかで拗ねていた自分が恥ずかしくて、楓に申し訳なくて。 佳奈子は楓の背中に腕を回し、ぎゅうっと力いっぱいその体にしがみついた。 びっくりしたように身じろぎしていた楓だったが、甘えてくる佳奈子のつむじを見下ろし、クスッと小さく微笑んだ。 「俺、実はめちゃめちゃ楽しみなんだよね、国内旅行」 「…………え?」 「浴衣姿の佳奈子さん見れるなんて、国内ならではの醍醐味でしょ」 それを聞いた佳奈子は思わずプッと吹き出し、ゆっくりと楓の胸から顔を上げた。 背中に腕を回したまま、間近で楓の顔を見上げる。 「…………エロい。楓」 クスクス笑いながら言うと、楓も同じように笑いだした。 そうしてコツンと佳奈子の額に自身の額を合わせる。 「一緒に書こうか、婚姻届」 「…………うん」 「朝日奈 佳奈子、になるんだね」 「うわ、長っ」 額を合わせたままクスクス笑い合い、二人は互いの体に腕を回した。 どちらからともなく、唇を重ねる。 こんなに幸せで、時が止まってほしいとさえ思える時間を、佳奈子は今生まれて初めて経験したのだった。  
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

222人が本棚に入れています
本棚に追加