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早織は、泉のことを知っている唯一の友人である。
泉が実は既婚者で、こっぴどい別れ方をしたと聞いていたところに、突然新しい男とデキ婚の一報を受け、かなり心配していたようだ。
申し訳なさで、佳奈子は思わずペコンとその場で頭を下げた。
「………ごめんね、ホントに。凄く心配かけちゃって」
「ううん。佳奈子が幸せになるんなら、それでいいし」
早織はニッコリと、穏やかに微笑んだ。
「凄くいい人に、巡り会えたんだね」
それを聞いた佳奈子はうっと言葉に詰まる。
どうやら愚痴を言いながらも、幸せオーラは隠せていないらしい。
無性に恥ずかしくなり、佳奈子はあたふたとお茶に口を付けた。
「でもぶっちゃけ、大変だよ? お金ないし、何もかもが慌ただしくて」
「………………」
「理香の言う通り、新婚旅行の場所も選べないしさ。思い描いてた結婚生活とは、かけ離れたものになりそう」
溜め息混じりに呟いた佳奈子の前で、早織はふっと顔を曇らせた。
微笑んでいた表情が不意に翳りを帯び、驚いた佳奈子はじっと早織の顔に見入る。
「………早織? どうかした?」
尋ねると、早織は伏せていた目を上げ、どこか寂しそうな笑みを浮かべた。
「────欲しくても出来ないより、全然いいと思うよ」
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