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不妊治療の詳しい情報を知らず、佳奈子は黙って早織の話に耳を傾けるしかなかった。
一度カミングアウトしたことで気が楽になったのか、早織は自分の治療の経緯を詳しく佳奈子に話して聞かせた。
何でも不妊治療には段階があり、早織は『タイミング法』といって、排卵のタイミングを見て夫婦生活を行うという、まだ初期の方法で様子を見ているらしい。
これで妊娠しなければ、次の人工受精に進むことを考えているとのことだった。
自分も卵巣機能不全と診断され、自然妊娠はほぼ不可能と言われた経験があるので、早織の苦しみは佳奈子には痛いほどよくわかった。
とは言っても、お互いの両親からの無言の圧力など、想像を絶するプレッシャーもあるには違いないが……。
「────頑張って、ね」
慎重に言葉を選びながら、佳奈子は口を開いた。
本当はこんな時、『頑張って』が一番辛いのかもしれない。
でも今は、この言葉以外は何も頭に浮かんでこなかった。
「自然妊娠はほぼ不可能って言われた私が、こうやって奇跡的に妊娠出来たんだもん。早織だって、絶対大丈夫だよ!」
勢い込んでそう言うと、早織は刹那じっと佳奈子の顔を見返した後で、頷きながら柔らかく微笑んだ。
「佳奈子も体調に気をつけて、元気な赤ちゃん産んでね」
「…………ん」
「産まれたら、抱っこさせてね」
「………うん」
「──── 結婚、ホントにおめでとう」
最後の言葉に熱いものが込み上げてきて、佳奈子は涙を堪えるようにして大きく頷いた。
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