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結婚式まで一月を切った9月のある日。
この日、佳奈子は定期検診のためいつもの産婦人科を訪れていた。
入籍してから初めての診察だったので、佳奈子は緊張気味に受付へと向かった。
「あの……よろしくお願いします」
「はーい。先に尿検査と、体重と血圧の測定お願いしますねー」
「あ、はい。……あの、それと」
「はい?」
「入籍して名字が変わって、保険証も変わったんですけど、まだ出来てなくて……」
「あ、わかりました。証明書はありますか?」
「はい」
「じゃあお預かりしますねー」
受付を終え、佳奈子はふうっと大きく息を吐き出した。
実際入籍したとはいえ、楓と一緒に住み始めるのは結婚式が終わってからの話だ。
朝日奈 佳奈子になった実感など、まるで湧かない。
検査と測定を終えた佳奈子は、空いている長椅子に腰を下ろした。
待ち合いの中は診察の順番を待つ人でいっぱいである。
この分だと、予約していた時間を大幅に超えそうだ。
すぐ脇に置いてあったマタニティ雑誌をパラパラと捲っていたその時。
「あの……すみません」
すぐ横から遠慮がちに声をかけられ、佳奈子はふっと雑誌から目を上げた。
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