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その日の夜。
佳奈子は楓のアパートにいた。
ここと佳奈子の実家のちょうど真ん中辺りに安いマンションを借り、結婚式当日から住めるように今は少しずつ荷物を運んだりしている。
引っ越しの準備もあり、楓の部屋はかなり雑然としていた。
「佳奈子さん、旅行先の目星はついた?」
頬杖をつきながらパラパラと旅行のパンフレットをめくっている佳奈子に、荷造りをしていた楓はその手を止めてそう聞いた。
見ているのか見ていないのか、佳奈子は気だるげにページをめくっている。
「………んー」
「早く予約しないと、もうすぐで一月切るよ?」
そこで佳奈子はバシッとパンフレットを閉じた。
その仕草の荒々しさに、楓は目を丸くする。
「佳奈子さん?」
「国内なんて、どこも一緒でしょ。何処でもいいよ、別に」
面白くなさそうに唇を尖らせた佳奈子を見て、楓はヤレヤレと息をついた。
「何処でも同じな訳ないだろ。二泊三日で車で行けるとこ。……ちゃんと考えないと」
「────イタリアがよかった」
佳奈子の口からポツッと言葉が漏れ、それを耳にした楓は溜め息をつきながら佳奈子の前に正座した。
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