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「それはこの前二人で話し合って、佳奈子さん納得したんじゃなかったっけ?」
「……………」
「言葉も通じない所で何かあったらどうするの? 佳奈子さんは赤ちゃん犠牲にしてでも、海外に行きたいの?」
淡々と正論を述べると、佳奈子の顔がみるみるうちに曇っていった。
しょんぼりとうなだれる。
「………わかってる。……ちょっと言ってみただけ。……ごめんなさい」
「……………」
「ただずっと、夢だったから。新婚旅行、イタリアに行くのって」
悄然と俯いてしまった佳奈子を見て、楓はふっと苦笑する。
すぐ横に腰の位置をずらし、膝の上で固く握られている佳奈子の手をそっと握りしめた。
「旅行なんて、結婚してからでもいつでも行けるよ」
「……………」
「でもこの子は、宇宙でたった一人なんだよ?」
右手で佳奈子の手を握ったまま、左手で優しく佳奈子のお腹に触れると。
佳奈子はくしゃくしゃに顔を歪めて、楓の顔を見つめた。
「────ん。……ごめん」
「うん」
素直に謝る佳奈子が可愛くて、楓は笑いながら佳奈子の頭を胸に引き寄せた。
男の自分にはわからない、色々と吹っ切れない何かがあるのだろう。
マタニティーブルーという言葉もあることだし、ここは広い心で佳奈子と接しよう、と。
佳奈子の頭をよしよしと撫でながら、楓はそう思った。
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