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エレベーター
まったく、どこのどいつだ。つまんねーイタズラしやがって。
乗り込んだエレベーターの中、そんなぼやきが口をついた。
十階建てのマンション。そこの八階に住む者にとってエレベーターは必需品だ。
正直、階段は、八階からだと下りでさえきつい。ましてや上りなどもってのほか。
上るも下がるもエレベーター頼り。だからこそ、この必須アイテムに悪さをされると苛立ちが湧く。
乗り込んだら、八階から一階までのボタンが残らず押されていた。
ガキとか、よくやるんだよな。でも使う側にとって、これは地味なりにダメーを食うイタズラ…いやがらせだ。
普通のマンションに設置されているエレベーターは、決して高速移動をするものじゃない。八→一の直行でもそこそこ時間を食うものだ。
それを、わざわざ一階ずつ停まるようにされたりしたら、下に着くまでにどれだけのロスを出すことか。
八階から下が全部ってことは、やったのは上の二階の連中の誰かだよな。
くっそ、マジ腹立つ。今度乗り合わせて上の階を押す奴がいたら、全押しした直後に降りるとかしてやろうか。
律儀にエレベーターが一階ずつ停まり、そこで扉が悠長に開閉するたびに苛立ちが増す。
閉じるのボタンをガンガン押してもなかなか閉まらねーし…ああもうくっそ。
それでもどうにか三階まで辿り着いた時、それは起きた。
扉が閉まるなり、何故か五階のボタンが点灯した。
ああ、五階で誰かエレベーターを呼んでいるのか。
そう思った直後に待てよと首を捻る。
外でボタンを押したからって、中のボタンにそれが反映とか、されたことあったか?
背筋がすーっと冷たくなった。でも、叫ぶことだけは必死にこらえた。
さっきまで悪態をついていたのに、息を潜めてエレベーターが動き出すのを待つ。二階で停まったがここで降りる気になれない。いや、降りちゃいけない気がしてる。
だってここは俺の目的の階じゃない。ここで降りたがっているのは俺じゃなく、これまでの他の階同様、指定して二階のボタンを押した『誰か』だ。
扉が閉まる。ゆっくりとエレベーターは下降し、一階に着いた。でもまだ気を抜くことはできない。だってエレベーター内のボタンは一つ灯っているのだから。
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