春ちゃんへ。

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*  その日、病院で検査を受けていた時、受付で仲良くなったおじさんから「もしも、自分が死んだ後の世界を見れたら、君はどうする」と尋ねられた。  僕は真っ先に春ちゃんのことを思って、すぐに「見たい」とだけ言った。何が代償とか、何がどうなるのかとか全然分からなかったけどけど、即答した。  そうしたら、おじさんは指輪を渡した。彼曰く「寝る前につけて、その人のことを思い浮かべたら、自分が死んだ後の世界でその人がどう暮らしているか分かる」と言うものだった。普通の人ならば信じられないのだろうけど、日常全部に退屈していた僕はそれを喜んで受け取った。  そして、僕はその指輪をつけた。そして、春ちゃんのことを思った。そしたら、夢で春ちゃんが出てきて、僕が死んでから一年後の彼女の姿が見れた。  まず、僕が死んでから半年ほどしてから春ちゃんに好きな人ができること。それで僕が春ちゃんに送った『ある物』で、喧嘩になること。バレンタインで初めてクッキーを焼いたら、失敗したこと。でも、その人はちゃんと「美味しい」と食べてくれたこと。  次に、一年後に彼と付き合うこと。喧嘩もあるけど、物凄く春ちゃんは笑顔だった。クッキーをリベンジして、成功したこと。ケーキを一緒に作って、誕生日をお祝いしたこと。水族館と遊園地に行って、お揃いの変なデザインのキーホルダーを買ったこと。春ちゃんが、男子生徒と仲良くして、彼氏さんが嫉妬しちゃうこと。それでまた喧嘩しちゃうこと。そのまま、別れちゃいそうになること。でも、友達のおかげで仲直りすること。  最後に、僕の話を彼氏さんに聞かせること。彼氏さんがとてもいい人で僕のお墓参りに行こうと言ったこと。  全部、彼女は幸せそうだった。それに安心して、僕は怠い体に鞭打って『ある物』を徐々に仕上げつつあった。そして、それを完成させると僕は先生に無茶を言って、ボイスレコーダーを用意させてもらい、このことを静かに語った。
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