78人が本棚に入れています
本棚に追加
当時、僕にはとても仲の良い2名の友人が存在した。そうだな……仮に彼らをA君とB君と記しておこう。
同じクラスで同じサッカー部に所属していた僕たちは、昼休みに校庭の裏側にあった小さなスペースでサッカーをしていた。
グラウンドにあるサッカーコートは上級生が使用しているので、この時、下級生であった僕たちはこういった空きスペースを見つけてはそこでボールを蹴って遊んでいたのである。
ある時、僕が勢いを付けて蹴ったボールが校舎に備え付けられていたスチール製の排管ダクトに当たり、その部分に大きな跡を残した。
当時のサッカー少年ならば誰もが愛読していたであろう国民的某サッカー漫画に出てくる必殺シュート……漫画の作中の中ではその必殺シュートを会得する為に、大木に向かって何度も強烈なシュートを放ち、その大木を見事に倒すというシーンがあった。そう、スチール製の排管ダクトに穿たれたボールの跡は僕たちにその人気漫画の憧れのシーンを連想させてしまったのだ。
――ああ、ここまで記せばもう察しはついてしまっただろう。
僕たちはその昼休みの時間いっぱいを使って何度も何度もその排管ダクトに向かってシュートを放ち続けた。
誰が一番強力なシュートを蹴れるか……
誰が一番大きな跡を残せるか……
昼休み終了のチャイムが鳴るころには既にスチール製の排管ダクトには至るところにいくつもの凹凸が生まれ、大きな歪みが生じていた。
「面白かったー! 明日もここで遊ぼうぜー!」
僕たちはそう約束をしてその場を後にしようとした……その直後である。
突然、強い風が吹き、大雨が降り始めたのだ。
グラウンドで遊んでいた生徒たちも突然の豪雨に大慌てで校舎に向かって駆けていく。
――そう、その時である。
遊んでいたサッカーボールを回収する為に友達よりも少し遅れて走り出した僕ははっきりと見たのだ。
学校と外の敷地を隔てる境界である金網の向こう側。そこに佇み、こちらをジッと見ていた。
あの『雨合羽』の姿を……
◇
最初のコメントを投稿しよう!