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学校でキツイ指導を受けた日の帰り道。
気落ちした僕たち3人は校門を出ていつもの十字路に差し掛かる。
その時、B君が言ったのだ。
「アイツ……一体何だったんだろう」、と
それは僕も、そしておそらくはA君も同じ気持ちだっただろう。
しかし、この時の僕は実はその『雨合羽』に対してそれほど大きな興味を持ってはいなかった。そんなことよりも今は「お咎め無しで良かったー」という安心感でいっぱいだったのである。きっと近所の親切な人が危ないと思って注意してくれたんだろう。
その程度のことだと考えていたのだ。
そう、B君の次の言葉を聞くまでは……
「俺……実はアイツの顔覚えてないんだよ、男だっだけ、女だったけ?」
その瞬間、僕は心臓を握りつぶされたような感覚に陥った。B君に何か答えようとしたけど言葉が出ない。息が……出来なかったのだ。
男だったけ、女だったけ
……分からない。
あれ、じゃあ声は?
高い、低い
……分からない。
それじゃ、体格は?
細い、太い
……分からない。
そもそも『雨合羽』の色は?
赤い、青い
……分からない。
おかしい、こんなのは絶対におかしい!
しかし、記憶を探っても思い出すのは……
――あの『雨合羽』という存在だけ。
そう、色も分からない『雨合羽』だけなのだ!
腕や手はあったか?
太腿や足はあったか?
首や顔はあったか?
否、そもそも人間――――だったのか?
◇
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