第一章

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第一章

 ある日、歩いていたら流れ星を拾った。黄色で真ん丸、30度傾いた輪がついている。はち切れて潰れたダンボールの上に乗っかっていた。 場所は人気の無い住宅街の路地。時刻は平日朝8時前。高校生の俺はなに食わぬ顔で、その横を通りすぎようとした。  そこで俺はふと思ったのだ。カップ麺が食べたいと。 両働きでほとんど家にいることの無い親が、俺に伝授した炊飯術でここ十年カップ麺を食すことなく、16を迎えた。昼に購買に売られたソレを買うこともなく、何せ昼飯は妹の上出来弁当(200円)を食べているから、朝昼夜と食べることがない。6歳のとき、小学校の奨学祝いでお祖父ちゃんが命の代償に買ってきてくれた、カップ麺を最後に食べていない。 俺は何でカップ麺を食べないのか。行く宛もなく、さ迷い続けた先にカップ麺にたどり着くと、誰が言っているのだ。未来永劫、俺は、私は、我は、妾は、儂は、我輩は、カップ麺に再びありつける日は来るのだろうか!!!?  と、流れ星に手を触れながら思ったのである。 すると流れ星は急速に光を上げ、無音の響きと共に、白銀の煌めき放つ。 な、何だ!この光は!…まっ、まさかっ!ゆ、夢を叶えたというのかっ!? ───流れ星には夢を叶える不思議な現象がある。どんな無意味な夢でもふざけた夢でも叶う、素敵なジェントルメンなのだ!!!  無音の空間を薙ぎ払うのかのように、現実との区別をつける軽やかな音、『ポンッ』。電気ポットが過去と未来を繋ぐ。乾いた麺に灼熱の水が掛かり、日常と幻想の合間に白い湯気を溢れかえらせる。 そんな視界をみせる石。つまり流れ星。  俺は満月のように丸い流れ星の一部を手でもぎ取り、食した。 口内に広がる極限まで熱せられた麺、その熱さに舌を出して噎せてしまうかの如く。だが次第に慣れが現れて、我が神経に安堵の念を与えてくれる。続いて現れるは先程まで乾いていたはずの野菜たち。ネギ、玉子に加え肉、ナルト。彼らは麺の絶妙な味わいをさらに盛り上げてくれるアシスタント。その味を更に深淵まで掘り進めてくれるのだ。最後に現れるは、昔ながらで忘れられぬ、あの日お祖父ちゃんが買ってきてくれた、10年前の味。醤油。かの蕩けるようなしょっぱさ、言葉では到底伝えることのできない、かつおだしの香り、またたくまに拡がる滑らかな血。 ああ、俺は今、幸せである!!
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