第一章

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 2012年4月。    教室に溢れ返ったクラスメイト達のざわめきを遮るように、白いイヤホンを両耳に突っ込んだ。 イヤホンの先に繋がったアイフォンで動画投稿サイト『ニコニコ動画』の再生アプリを開く。  『ニコニコ動画』には、大げさではなく、世界中から初音ミクの歌う「新曲」が投稿される。 その楽曲はもちろん素人に毛が生えた程度のものから、プロレベルのものまで、千差万別だ。  今日、インターネットの世界において、音楽を志す人間のプロとアマチュアの垣根は限りなく低い。  いや、音楽に限らず、イラストレーターやグラフィックアーティスト、アニメーター、ダンサーなどもそうだ。  かつてはテレビに出るか、さもなければ賞レースに参加しないと見向きもされなかった自分の趣味レベルの作品が、ウェブという大宇宙で日の目を見るチャンスを得た。  いまや幾億のアマチュアたちが自己表現し、同じく幾億の他人から評価をもらうと言うシステムが成立している。 そして、そんなアマチュアの中には、稀にして非凡な才能の持ち主もいるのだ。 ボクはリストの中からお気に入りの楽曲を再生させる。 心地よい電子音が耳に流れ込んで来た。 歌っているのはもちろん、初音ミクだ。
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