第1章

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 それは二つ折りの携帯電話のような形状だった。上半分に小さな液晶画面があるところはまさしく携帯電話なのだが、下半分がそれとは違った。小さなくぼみが一つあるだけだ。  くぼみには特殊なセンサーが埋め込まれていた。このくぼみにほんのわずかな量の有機物を置くだけで、その有機物のDNAを解析し、そのDNAデータを元に品種や産地、生産時期などを特定するのだ。  そう。これは数年前、食品偽装が世間を騒がせた頃に開発が始まった道具だ。これさえあれば、一般消費者の誰もが手軽に偽装食品の判別が出来る。偽装問題が落ち着いた今頃になってようやく完成したのだ。  しかし、偽装問題が騒がれなくなったからと言って、それが一切ないとは言い切れない。表にでないだけで、実はまだまだあるのかもしれないのだ。  僕がこの道具を手に入れたきっかけも、そんな思いからだった。  結婚してすぐに子供ができたせいで、しばらく妻とまともな外食をしていなかった。そろそろ子供も手がかからなくなったことだし、妻の誕生日に彼女を食事に誘うことにした。せっかくだから、ホテルの最上階にある、高級レストランへ。  高い金を払っていくのだから、偽装食材を使われていたら割に合わない。だから僕はこの道具を手に入れたのだ。  
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