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僕の挙動に気づいたのか、眉をひそめた妻が、「どうしたの?」と問いかけてきた。
件の道具を妻のほうに滑らせると、僕は小さな液晶画面をこつこつと指先で叩く。
「ほら、この海老。調べてみれば車海老じゃなくてブラックタイガーだ。ちょっと店の者に忠告してやろうと思ってさ」
そう言って再びウェイターの姿を探す僕を、妻は静かに嗜めた。
「いいじゃない、別に。ブラックタイガーでも充分おいしいわよ」
そう言って彼女は料理を口に運んだ。
満足そうに租借する妻を目の前に、
「でも、料金はどうするのさ?ブラックタイガーなのに、車海老の代金を払わされるんだぞ」
「それだって、こうしてホテルの最上階のいい景色を眺めながら食べられるのよ。ブラックタイガーでも、それだけの価値があると思わない?」
妻はそう言うと、窓外の夜景に目を細めた。
僕もその視線を追うように窓の方を見る。宝石箱のような景色が眼下に広がっていた。
再び妻に目を向けると、彼女は穏やかにこちらを見ていた。その眼差しで、僕は起こそうとしていた行動をあきらめた。
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