第1章

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「そうだな。料理を美味しく食べられるんだから、それで充分か」  そう言ってから、僕は妻の前に置いたままだった件の道具に手を伸ばす。 「こんなもの、持ってこなけりゃよかったかな」  そう言いながら、それを手元に戻そうとしたその時、唐突に妻がくしゃみをした。 「おいおい風邪か?」 「違うわよ。ちょっとむずむずしただけ」 「そうか?気をつけろよ」 「ありがとう」  そんな会話をしながら何気なく僕は手の中の道具に目を落とした。そこには、妻がくしゃみのときに飛ばしたと思しき一滴の唾液が付着していた。ちょうど、二つ折り下半分のくぼみの部分に。  
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