第1章

6/6
前へ
/6ページ
次へ
 しばらく眺めるうちに、液晶画面に文字が並び始める。それを見た僕は、すぐに妻に目を向けた。 「君は、確か関西のほうの出身だったよね?」 「ええ、京都よ」 「歳は、僕より三つ下だ」 「そうだけど、なに?今頃……」 「いや、なんでもないんだ」  僕はそう言って、手の中の道具をポケットに仕舞った。  考えてみれば、妻の京都弁はほとんど聞いたことがなかった。それに、今夜実家に預けてきた娘は、僕と妻のどちらにも似ていない。  じっと妻の顔を見つめるうち、きれいな鼻筋や、歳のわりに張りのある肌が、どこか作り物めいたものに思えてくる。  そうか。誰しも、誰かのために、何かしらの偽装はしているものなのだ。そう思いながら、僕は自分の額にかかる前髪をかき上げた。その感触で思い出す。そろそろメンテナンスをしなければ……。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加