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仰向けに倒れた友人の左胸に、深々とスクリュードライバーが突き刺さっていた。
目の前で起きたことが理解できず、呆然とする僕の耳に、男の声が聞こえてきた。
「畜生め。俺はガンなんだよ。あと半年の命だってことはわかっていたんだ。だから、残された家族に金を残してやりたくて、生命保険に入ろうとしていたんだ。あれこれ書類を偽造して保険屋を騙して、やっと契約するところまでこぎつけていたんだ」
つまり、さっきこの男の向かいに座っていたスーツの男が保険屋だろう。ぼんやりとそう考えながら男を見る。
男は泣きそうな顔で笑いながら、話を続けた。
「それなのに、お前がこんなところで俺の寿命を口にするもんだから、全部水の泡になっちまったじゃないか」
僕たちの異変に気づいたのか、喫茶店の中が騒がしくなる。
男は荷物を抱え、走り去った。
「ほらみろ。寿命なんか知らないほうがいいんだよ」
僕は友人に向かってそう言うものの、その言葉はすでに手遅れだった。
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