第1章

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「すごいものを手に入れたんだよ」  そう言って友人は僕を喫茶店に呼び出した。 「いったいなんだよ、すごいものって」  怪訝な思いでそう言う僕の目の前に、彼はポケットから取り出したあるものを置いた。 「メガネ?」と友人へ目を向ける。 「そう、メガネだ。でも、ただのメガネじゃないぞ」 「へぇ……」と曖昧な返事をする僕に構うことなく、彼は興奮気味に話を続ける。 「これは、人の寿命がわかる眼鏡なんだよ。信じられないと思うけど、騙されたと思ってこれをかけて俺を見てみろ」  鼻息を荒げた友人は、そう言ってメガネの蔓を広げてそれを僕に差し向けた。 「何をバカな……」と言いながらもそれを受け取る。なんの変哲もないメガネだ。まあかけるくらいなら別に構わないかと思いつつそれをかけ、友人へ目を向けた。  数字が見えた。胸の位置に。 「どうだ?」と友人が僕を見る。 「ああ、数字が見えるな」 「それは、いくつだ?」 「83だ」 「なるほど」と言いながら友人は僕の顔からメガネを奪い取る。 「俺は83歳まで生きられるってことか。俺は今31だから、あと52年だな」  そう言ってから友人はメガネをかけ、こちらを見た。 「おいおい、ちょっと待ってくれ。寿命なんか……」  知らないほうがいい。僕がそう言い切るよりも早く友人が口を開いた。 「お前は81だ。やった、俺のほうが長生きじゃん」 「あのさ」と僕は無理やり聞かされた自分の寿命に眉をひそめると、 「そもそもそんな数字、信用していいのかか?本当にそれが寿命だとどうして言い切れる?」 「言い切れるんだよ、これが」  友人は自信満々にそう言って、右隣の席に目を向ける。そこには中年の女が一人でケーキを食べていた。 「こちらのおばさんは、なんと95歳だって。やっぱ女は長生きだね」  それから彼は反対側の席に目を向ける。そこには二人の男が向かい合って座っていた。一人はスーツ姿のサラリーマン風で、もう一人は作業着姿だ。どちらも僕らより少し年上といった感じだ。 「ああ、スーツのお兄さんは、79歳だ。まあそこそこ生きられるね。おっと。逆に向いの作業着のお兄さん。なんと44歳とでたよ。残念ながら若死にだね」  無遠慮に言い放ったその言葉に、両隣の人たちは軒並み驚いたように目を丸め、それから嫌悪感に満ち溢れた表情を浮かべて荷物をまとめ始めた。
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