第1章

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 まずは中年の女が窮屈そうに席を立ち、それからスーツ姿の男がレシートを手に立ち上がった。作業着姿の男が慌てた様子でスーツ姿の男を呼び止めている。しかしスーツ姿の男はすがりつく作業着姿の男の腕を振りほどき、足早に店を出て行った。  去りゆく男をしばし呆然と見送ってから、作業着姿の男が友人に目を向けた。 「あの、今言ったことって、本当?」  そう問われて友人は再びメガネ越しに男を見る。 「もちろんだよ。このメガネは寿命が見えるんだ。あなたは確かに44歳だね」  作業着の男は力が抜けたように「へっ」と笑うと、 「実は俺、先月44になったばかりなんだ」  男の言葉にぎょっとした僕は思わず友人を見た。さすがの彼も気まずそうな顔で目をそらせ、メガネをはずす。 「ちなみに、そっちの君」  その声で男のほうを見る。彼は僕を見ていた。 「あのメガネで、友達のことを見てやってくれないか」  そう言って男は友人のほうを指差した。  友人は怪訝な顔で僕を見て、それから男へと視線を移す。 「ほら、早く」と男が言ったことで、友人は僕にメガネをよこした。  それをかける。さっき見たばかりなのにと思いながら視線を上げた僕は「え?」と思わず声を上げた。  その声にびくりと体を震わせた友人が、「なんだよ?」と言って不安げな眼差しをこちらに向ける。 「だって、お前。メガネには31って……」 「はぁ?」と声をひっくり返した友人は、 「そんなバカな。31って言ったら今の歳だぞ。さっきは83って言ったじゃないか」 「それは、こういうことさ」  そう言って男がいきなり友人に飛び掛った。勢いあまって二人はイスごと倒れてしまう。 「ちょっと、なにするんだ」  慌てて僕は男の作業着の襟首を掴み、友人から引き離した。そして瞠目する。  
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