“sofa”

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“sofa”

 まさか打ち上げられたり  わざわざ運んできたわけじゃないだろうけど…  海水浴場(ビーチ)が終わって、「遊泳禁止」区域に入った人気(ひとけ)のない浜辺。  黒い長イス(ソファ)がポツンとひとつ、かしいでる…。  砂に埋まっているのか?  脚が一本取れているのか?  右後ろに、少しかたむいてる。  ずっと離れたここからでは、詳しい事はわからないけど…。  左からのサイド・ショアの風にはばまれながら  風に向かって海岸通りを走るぼく。  いつもお決まりの、海に入った後の、仕上げのジョグだ。  海の水はまだまだ冷たいけれど  真昼の陽射しは、もうチョッピリ夏。  でも、 『チェッ!』  ぼくは少々不機嫌だった。今日はあまり波が良くなかった。向かい風に、腹立たしさがいっそう募(つの)る。  でも、 『あれ…?』  眼下に迫ったソファ。  そこには寄り添うふたつの影。 『いい場所見つけたネ』  後ろから差す、低く下がった太陽の光は  砂浜に映る影を長く引き伸ばして  吹く風の冷たくなってきたけど  寄り添うふたりには、関係ないのだろう…  だってこれからふたりにとって、最高のひとときが待っているのだろうから…。  そう思うと、ぼくの足取りも、少しは軽くなるよ…。
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