覚醒

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 〇月×日 雨 どうしよう どうしよう どうしよう 彼の友達があいつだったなんて 気付かれてしまった? 昔の事を彼に話してしまうかもしれない それだけはいやだ きっと嫌われてしまう 絶対いや いや いや 何とかしなければ また昔と同じ自分にはなりなくない 戻りたくない どうしよう……       「あ、早紀(さき)、あのさぁ孝也(たかや)と同級生だった?」   突然彼の俊行(としゆき)に呼び止められ昨日会ったやつの事を聞かれた。 私は一瞬ドキっとした   「え?知らないよ。」   平然を装いそう返すと   「そっかぁ。孝也がさぁ、早紀のこと同級生の子に似てる気がするって言ってたんだよねー。」   「そ、そうなんだ。他人の空似じゃない?」   「そっかぁ。」   奴は気付いているのかもしれない… そう思うと私は怖くなった。     ある日俊行と飲んでいるとそこへいきなり奴が来た   「よう!俊行!」   「おう!随分早かったなー。」   私は驚いたがそんな事知るはずもない俊行が   「バイト終わってもし来れたら来いよって誘ったんだよ。」   と説明してきた。   孝也は俊行と会話しながら私の顔を何度も確認するように見てきた。 きっと昔の私の面影を重ね合わせているのだろう。   そのうちに俊行がトイレに行くため席を立った。   孝也と二人きりにされ私は少し動揺した。   するといきなり孝也が   「ねぇ。お前って佐藤(さとう)じゃねぇ?」   そう聞かれた瞬間、昔の思い出がいっきに頭を巡り足が震えた。 でもごまかさなければ…   「確かに名前は同じだけどただ同姓同名なだけじゃないですか?」   孝也はすぐに不気味な笑みを浮かべながら   「佐藤だろ?確かに外見は変わったけど…その嫌な時に唇をつまむ癖は直ってないよ…」   私はハッとした。 その慌てた顔をみて孝也が低い声で言った。   「やっぱりな…昔散々汚い事しておいて普通に彼氏なんか作ってるんじゃねーよ。」   私の体が一気に冷たくなった。 やつのその言葉で、今まで忘れていたドス黒いかたまりが、また胸の奥で渦を巻き始めた…
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