38人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
だから保は言ってやる。
「ブローカーの黒幕って、旅行会社だろ。それも団体旅行やってるような大手の」
高広は驚いた顔をしてやっと保を振り返る。
「――てめっ、何でソレ」
「俺も優秀な捜査官だってこと」
保はしてやったりとニッと笑う。
飛行機を降りた直後、何度も入国を重ねている阿木オーナーは少しだけ入国検査に手間取っていた。
それを待つ間、保はエコノミーから降りてきた、例のツアーの女性客たちに再び出会ったのだ。
そこでホストの習性か、それとも運命だったのか、
「よい旅を、お姉さんたち」
なんの気なく彼女たちに声をかけたのが、きっかけだった。
彼女たちは息子連れなんかではなかった。
同じツアーになった日本人ではない青年が、ひとりで不安そうにしていたのが放っておけなかったと言った。
そしてその彼は、再び日本に戻ることはないと言っていたと教えてくれた。
「あんなイケメンが日本からいなくなるなんて寂しいわ」
「あなたは絶対、日本に帰ってきてね」
賑やかで平和な彼女たちは、屈託なくそう笑って、保の周りでキャッキャとはしゃいだ声をあげた。
これから楽しい旅行が始まるのだ。
彼女たちの前には明るい世界しかない。
底辺で蠢く人間たちの、どす黒い現実なんて知る由もない。
最初のコメントを投稿しよう!