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証拠はないが、確信はしていた。
ツアーの客をひとり残して帰るなんていうリスクを、普通の旅行会社なら簡単に承知するわけがないのだ。
これは団体旅行を隠れ蓑にした、人身売買。
阿木オーナーが不審なブローカーと接触しないで、コンタクトを取っていた方法も、事実を知れば簡単な話だ。
公開されているツアーのスケジュールを見るだけでいい。
そして臓器の提供で渡航する人間は、そのツアー客の中に紛れ込ませる。
オーナーと提供者が落ち合っていたのはホテルか観光地か。
漫画に出てくるような不審人物を探す日本の捜査官が、おばちゃん集団の団体旅行客の添乗員を見落としていたのも、非難は出来ない。
高広なら勝ち誇った顔をして、龍一に、
「ふしあな」
とでも言い放つだろうが。
ちゃんと気づいていた保が、むざむざ貶されたくはないので言ってみたのだが、高広は気に入らなさそうだ。
「んならさっさと逃げ出して来いよ。あんなドヘンタイとイチャつきやがってよ」
「別にイチャついてたわけじゃないさ。証拠を探してたんだ」
高広は一体どうやって、個室の部屋の中の様子まで覗いていたのだろう。
本当にこの天才ぶりには底が見えない。
それからこの、家族に対するどうしようもない激甘ぶりにも、底なぞ見えない。
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