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「─────俺は反対だ」
静かな……けれどとてもはっきりとした声で楓はそう言った。
今までに見たこともないような強張った楓の顔を見て、佳奈子は思わず息を飲んだ。
「………楓……」
「そんなこと、させられる訳ないだろ……」
俯き、楓は佳奈子の両手をぎゅっと握りしめた。
少し武骨な大きな手は、カタカタと小刻みに震えていた。
「奥さんも佳奈子さんのことも裏切って、自分勝手に傷付けたような男だよ? まともに話し合って、理解しあえる相手だとは思えない……」
「……………」
「………また、佳奈子さんに何かあったらと思うと、怖くてたまらないんだ」
引き絞るような声で言いながら、楓は佳奈子の体を強く抱きしめた。
楓の胸に倒れこむような形で、佳奈子はその腕の中に収まった。
「…………楓」
「佳奈子さんが治療してるの待ってる間、俺、怖くて悔しくて……震えが止まらなかった」
「……………」
「佳奈子さんがもしかしたら殺されてたかもしれないって……そう思ったらホントに怖くて……守れなかったことが悔しくて……」
佳奈子を抱きしめる楓の手に、痛いほどの力がこもった。
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