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「待って、お願い！ これ以上、あの人のこと苦しめたくない！」
楓の腕に取り縋りそう叫ぶと、楓は驚いたように目を見開いた。
「………それは、何に対する同情なの？」
「……………」
「どんな理由があるにしろ、人を傷付けていい理由にはならない」
冷たくさえ聞こえるような突き放した楓の言葉を聞き、佳奈子はぐっと奥歯を噛み締めた。
楓の言うことは正論だし、何一つ間違っていない。
本来なら同情などせずに、身を守る為にはどんなことでもしなくてはならないのかもしれない。
─────でも。
「………欲しくても出来ないのは、辛いんだよ」
訴えるように楓を見上げていた佳奈子の目から、涙がポロリと零れ落ちた。
楓はハッと息を飲む。
「子供が欲しくて欲しくて、できなくて。……それでもあの人は前向きだった」
「………………」
「そんな時に、一番信じて愛してた人に裏切られて、しかも、どんなに望んでも自分には出来なかった子供が、浮気相手に出来たって聞かされたら……誰だって気が狂うよ……」
再び二の腕の傷が疼き出し、佳奈子は包帯の上からそっと傷口を押さえた。
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