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「………っ、だからって、ナイフで刺そうとするなんて常軌を逸してるよ! 現にケガだって……」
「こんな傷は、いつかは治る!」
勢いよく言葉を遮られ、その迫力に楓は一瞬気圧される。
楓が無言で佳奈子の顔を見つめ返すと、佳奈子の表情が苦しげに歪んだ。
「私のケガは、いつかは治る。……でも、あの人の心の傷は、一生消えないんだよ……」
「……………」
「これ以上、あの人のこと、苦しめたくないの……」
次から次に涙が溢れてきて、佳奈子はたまらず両手で顔を覆った。
「────私、泉さんのこと、許せないよ……。なんでこんな酷いこと出来るの?」
「……………」
「あんなに素敵な奥さんがいるのに、私と浮気して……。あげく一方的に別れ話なんて、酷すぎるよ……」
楓は浮かしかけていた腰を、再びペタンと床に落とした。
そうして真正面から佳奈子の両肩に手を置いた。
「………泉さんは、本気で言ったのかな。……佳奈子さんと結婚するつもりだ…って」
楓の疑問の言葉に、佳奈子はビクッと肩を揺らした。
ゆっくりと掌から顔を上げると、楓は射るような強い視線で佳奈子の目を見つめていた。
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