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佳奈子は強く唇を噛み締める。
本当なら、楓には永遠に黙っているつもりだった。
………けれど、ここまできたらもう、話さない訳にはいかない。
「─────あの日」
意を決して、佳奈子は口を開いた。
楓はじっと佳奈子の顔に見入る。
「役所で倒れたあの日。……泉さんに偶然会って、その時に言われたの」
「……………」
「もし、お腹の子供が自分の子供なら、奥さんとは別れて私と結婚するって」
「……………!!」
楓は信じられないというように、大きく瞠目した。
楓の顔をまともに見ることが出来ず、佳奈子は思わず床に目を伏せてしまう。
「私、信じられなくて。あまりにも勝手で、許せなくて。……自分でも何を言ったのかあんまり覚えてないんだけど、泉さんに怒鳴り散らして、カーッて頭に血が上って……」
「……………」
「そこで、意識を失っちゃったの……」
そこまで話し終えると、楓の手がのろのろと佳奈子の肩から離れた。
そのまま膝の上で強く拳を握りしめる。
「………病院から帰った後も、実は一回メールがあって。───俺は、本気だから…って」
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