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黙っていたことの後ろめたさから、自然に声が震えてくる。
顔を伏せたまま、佳奈子はぎゅっと目を閉じた。
「……でも、私の中にはもう楓しかいなくて。楓との未来を邪魔されたくなくて、返事もせずに着信拒否したの」
「……………」
「それからはもう連絡もなくて。……だから、彼も諦めたんだろうって思って、最近は思い出すこともなかったの。──まさか本気で、奥さんに別れ話してるなんて、想像もしてなくて……」
楓がずっと押し黙っているので、佳奈子は恐る恐る目を開けて楓の顔を窺った。
楓は怒りを堪えているのか、険しい顔で唇を真一文字に引き結んでいる。
それが泉に対する怒りなのか、黙っていたことの佳奈子への怒りなのかわかりかねて、佳奈子はその場で勢いよく頭を下げた。
「黙っててごめんなさい!……でも、このままなかったことにすれば、済むことだと思ってたの」
「………………」
「変なこと言って、楓に余計な心配かけたくなかったから……」
手を伸ばし、佳奈子は楓の腕に縋りついた。
真下から真っ直ぐに楓の顔を見上げる。
「────ごめんなさい。………ごめんなさい」
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