対峙-2

28/32
前へ
/32ページ
次へ
別れ話をした時。 気持ちは佳奈子のほうにある、と泉は言った。 けれど、嫁と別れることはできない、と。 結婚とは、人生の契約だ。 社会的立場や、お互いの家族のことなど、拭い去れないしがらみがある。 心変わりしたからといって、簡単に別れたりくっついたり出来ないことは、佳奈子にだって理解できた。 何も知らない奥さんを傷付けてまで、泉を奪おうとは思わなかった。 綺麗な別れではなかったけれど、お互いに納得して別れたはずだ。 だがここへきて泉の気持ちが変わってしまったのは、佳奈子のお腹の子供が自分の子供だと泉が信じてしまっているからだ。 奥さんとの間に子供はいないが、本気になってしまった浮気相手に子供が出来たとわかってしまった。 だから泉は決断したのだろう。 奥さんと別れて、佳奈子と一緒になろう、と。 別れてからの期間の短さから考えて、お腹の子供が他人の子供である可能性を、恐らく泉は全く考えていない。 それは自分が、きちんと説明をしなかったせいだ。 話の途中で意識を失い、話が完結していないにも関わらず、泉を恐れて逃げてしまった自分の責任だ。 ─────だからちゃんと、自分の手で完結させなければならない。 会ってはっきり、泉に告げなければならないのだ。 お腹の子供は、楓の子だと。 自分が今愛しているのは、楓なのだと。  
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

221人が本棚に入れています
本棚に追加