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「やだ、私ったら妊婦失格ね。妊娠中にカフェインはないわよねぇ」
「……………」
「私、妊婦前は凄いコーヒーホリックだったの。……なかなか習慣って変えられなくて」
いけないいけない、と麻里は誤魔化すように笑う。
佳奈子は曖昧に微笑んだが。
この時初めて、佳奈子は麻里に対して小さな違和感を覚えていた。
聞いたところによると、麻里は結婚して4年。
今回、待望の妊娠だったらしい。
………ならば人一倍、妊娠中の生活には気を付けそうなものなのに。
妊娠中にカフェインがよくないことなど、当然念頭にあるはずだ。
(……あれっ?……そういえば……)
佳奈子はここに来た時の麻里の格好を思い出す。
涼しげな白のロングワンピースに……割りと高めのサンダルを履いていなかっただろうか?
先程は何も思わなかったが、今思えば──。
「お待たせ」
物思いに耽っていた佳奈子は、すぐ傍から聞こえた麻里の声にドキッと体を震わせた。
いつの間にかテーブルまで来ていた麻里は、フローリングに膝を付きながら佳奈子の前にお茶の入ったグラスを置いた。
綺麗な銀の盆には、美味しそうなレアチーズタルトがホールのまま乗せられていた。
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