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佳奈子はそっと楓の背中に腕を回す。
そうして愛しげに頬を楓の胸に押し当てた。
「…………楓」
「…………っ」
名を呼ぶと、楓は更に強く佳奈子を抱きしめた。
体は小さく震え、トクトクトク…と速い鼓動が佳奈子の耳を打つ。
それを聞きながら、佳奈子は静かに目を閉じた。
「………でもね。どこかでけりをつけないと、いつまでも私たち、怯えて暮らさないといけないんだよ?」
「……………」
「また泉さんの奥さんに何かされるかもしれない……泉さん自身が会いに来るかもしれない…って」
目を開け、佳奈子はゆっくりと楓の顔を見上げた。
「こんな不安な気持ちのまま、私結婚式なんか迎えられない」
「………………」
「ちゃんと全部ケジメつけて、すっきりと過去を清算して新しい人生を始めたいの」
諭すような口調で言うと、楓は納得がいかないのか横を向いて唇を噛み締めた。
そのまま何かを考え込むように押し黙ってしまう。
しばらく何も言わずにその横顔を見つめていると、やがて楓はハアッと大きな溜め息をついた。
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