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(…………楓………)
楓の気持ちを思うと、佳奈子の胸は張り裂けそうな痛みを覚えた。
自分が楓の立場なら、やはり心配だし絶対に行って欲しくないと思うに違いない。
それを断腸の思いで許してくれた楓を、佳奈子は改めて愛しいと思った。
………自分にはこの人がいるから。
だからこの先何があっても、きっと大丈夫だと。
「………うん。約束する」
楓の胸にしがみつきながら言うと、楓の体がピクリと小さく反応した。
そのままゆっくりと、佳奈子の体を引き離す。
自分を見下ろす不安げな瞳とぶつかり、佳奈子は精一杯微笑んで見せた。
「人の多い所で会うし、充分に気を付けるって約束する」
「………………」
「だから、心配しないで」
楓の瞳が大きくユラユラと揺れる。
それを隠すようにもう一度目を閉じ、楓はおもむろに頷いた。
「…………わかった」
その一言だけを言い、楓は目を開け佳奈子の頬を両手で挟み込んだ。
しばらく視線を絡ませたあと、楓は押し包むように佳奈子の唇に自身の唇を重ねた。
一瞬驚いた佳奈子だったが、すぐに腕を楓の首に回してそれに応えた。
不安を払拭する為か、その後ずい分長い時間、二人はそうしてお互いの温もりにしがみついていた。
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