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「どうしたの? 食べて?」
張り付いたような笑顔を目にし、佳奈子は石になったように動けなくなる。
ノロノロとフォークに手を伸ばし、小さく麻里に会釈をした。
「………い、いただき……ます」
逃げられない雰囲気を察し、佳奈子は震える手でケーキを口に運んだ。
………とにかくもう、さっさとこれを食べてこの家を出よう。
今はもうそれしかこの家を出る方法はないように思えた。
「……………朝日奈さんて、とっても綺麗ね」
不意に、向かいに座る麻里がそう呟いた。
急いでケーキを口に運んでいた佳奈子は、驚いてそれを喉に詰めそうになる。
慌ててお茶でそれを流し、否定する為に手を横に振った。
「そ、そんなことないです」
「あら、そんなことないわ。とっても綺麗よ」
「……………」
「数々の男の人、虜にしてきたんでしょうねぇ……」
麻里は頬杖を付きながら、舐めるような口調でそう言った。
その時にはもう、張り付いたような笑顔すら麻里の顔からは消えていた。
「……………」
たまらず、佳奈子はフォークを皿に置く。
あと3分の1ほど残ってはいたが、とてものことそれ以上は喉を通りそうもなかった。
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