対峙-2

6/32
前へ
/32ページ
次へ
カチ、カチ、と、どこからか時計の秒針の音が聞こえてくる。 食べ残したレアチーズケーキを見つめながら、佳奈子はあることを思い出していた。 まだ、泉と付き合っていた頃。 喫煙者のくせに泉は甘党で、食事の後はいつも佳奈子と一緒にスイーツを注文していた。 色々なものを食べたい佳奈子に反して、泉が注文するのはいつもレアチーズケーキ。 またそれ?と笑う佳奈子に、これが好きなんだよ、と拗ねたように泉は答えていた。 (…………まさか………) 佳奈子はゆっくりとケーキから麻里に視線を移す。 瞬き一つせずに自分の顔を射抜いている麻里の瞳の鋭さに、佳奈子の肌はゾッと粟立った。 口の中がカラカラに乾いてくる。 定期的に響く秒針と空調の音に気が狂いそうになり、佳奈子は思い切って口を開いた。 「あ、あの……っ」 「……………」 「高橋さん、は……」 「───── 私」 そこで麻里は、静かに佳奈子の言葉を遮った。 虚を衝かれた佳奈子は、咄嗟に口を噤む。 すると麻里は、ふわりと髪を耳にかけて艶然と佳奈子に微笑みかけた。 「私、高橋じゃないわ。───ホントの名前は、泉 麻里っていうの」  
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

221人が本棚に入れています
本棚に追加