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予感が的中し、佳奈子の心臓はドクン、と大きく跳ね上がる。
こめかみを一筋、スーッと汗が流れていくのがわかった。
(泉……麻里。………泉……)
心の中でその名を何度も反芻する。
忙しさと、楓と結婚したことの幸せに浸るうちに、最近は思い出すこともなかった名前だった。
「嘘ついてごめんなさいね。でもホントのこと言うと、あなた絶対に来てくれなかったでしょう? ……どうしても、一度ゆっくり話してみたかったの」
「……………」
「高橋は私の旧姓。───もっともあなたのおかげで、また旧姓に戻るかもだけど」
麻里は皮肉混じりに言い、佳奈子のはす向かいのソファーにおもむろに腰を下ろした。
麻里の言葉の意味がわからず、佳奈子は訝しげに眉をひそめる。
「……………え?」
すると麻里は、初めてその瞳に激しい怒りを漲らせた。
あまりにも憎悪のこもった視線に、佳奈子は息も出来なくなる。
「しらばっくれないでよ! 私に隠れてコソコソと、雄くんと付き合ってたんでしょう!?」
「……………」
「二人して……二人して、子供の出来ない私のこと、馬鹿にして笑ってたんでしょう……?」
次の瞬間、麻里の両目から涙がどっと溢れだした。
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