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「………当たり前じゃん。楓は、世界一いい男だもん」
「はっ、世界一か。言うね」
臆面もなく言う佳奈子に、泉はクッと吹き出した。
そこで泉は、アイスコーヒーに口を付ける。
泉がグラスを置いたタイミングで、佳奈子は真っ直ぐに泉を見つめた。
「楓と出会えたのは、貴方にフラれたおかげ。……運命だったって、今は思ってる」
「……………」
「それだけは、貴方に感謝してる」
泉は無言で、佳奈子の顔を見つめる。
挑むように、佳奈子はその瞳を強く見返した。
「────幸せそうだな。……安心した」
やがて、泉はポツリとそう呟いた。
「お前には、本当に申し訳なかったと思ってる。俺のエゴで振り回して、とことんまで傷付けた」
「……………」
「………だから、お前が幸せになれるように、一番に願ってるよ」
佳奈子は大きく目を見開く。
泉にこんな温かい、心のこもった言葉をかけてもらうのは初めてだったからだ。
迂闊にも涙が浮かんできて、佳奈子は慌てて誤魔化すように唇を噛んで俯いた。
「………バカ。一番に願うのは、奥さんの幸せでしょ」
「麻里は願うんじゃなくて、俺が幸せにするんだよ」
顔を上げると同時に、佳奈子の頬を涙が一筋流れ落ちる。
それを見て、泉はどこか不敵にニッと笑った。
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