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もしかしたら、俺が気づがなかっただけで、運転手さんとあの人の間にはやりとりがあったのかもしれない。例えば、停車準備に入ろうとしたところで、違う違うとジェスチャーをしてみせたとか。あるいは俺が知らないだけで、この時間帯の運転手さんは承知している、お客じゃないけどベンチに座っている人とかかも。
ベンチの人が乗せろと追いすがって来ないんだ。だったら俺が騒ぐ必要はないだろう。
結論は出た。だから翌日以降も、たとえその停留所にピンクの日傘が座っていても、俺は運転手さんの停留所スルーを気にすることはなくなった。
そして数日。
人の少ないバスに乗り込み、移動も面倒とばかりに乗ってすぐの席に座った。
ガラガラの車内で好きな席に座る。この楽な通勤も今日で最後なんだなと思いながら。
期間限定の遅出が終わり、明日からは前と同じ時刻での勤務に戻った。当然、バスもラッシュアワーの混雑バスだ。
また早起きに戻るのは大変だなとか、あれこれ考えている内にバスは停車発車を繰り返しながら進み、やがてアナウンスがあの停留所の名前を告げた。
窓から覗く限り、今日もいるのはピンクの日傘のあの人だけ。バスを利用する『乗客』はいないから、今日もこのバス停は通過する。
そのつもりでいたのにバスの速度が落ちていく。停留所の前に停まる。
いつものベンチ利用さんだけだと思っていたけれど、もしかして、乗ろうとしているお客さんがいたのかな?
だけど、乗降口が開いても入ってくる者はいない。
バックミラーとかに、いかにもバスに乗ろうと走って来る人とが映ってるんだろうか。運転手さんはその人を待ってあげているんだろうか。
気になって窓から外を窺った。でもそこには誰もいなかった。走り込んで来る人も…ピンクの日傘の人も。
ここのバス停の道路脇は左右とも畑で見晴らしはとてもいい。誰か人がいれば目につかない筈がない。
だけどどんなに見回しても誰もいない。さっきまでベンチに座っていた人さえいない。
何が何だかまるで判らず、俺は乗降口に目をやった。その時だ。
運賃確認のために各バス停で発券される切符状の紙。そこには数字か書かれていて、降りる際、数字と車内の掲示板を見合わせれば、この路線バスを使うのが初めてでも、払うべき運賃がいくらなのかが一目で判るというシステムだ。
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