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その券を発行する機械が作動しているのがはっきりと見えた。
誰も取らない小さな紙片が床に落ちる。それと同時に乗降口の扉は閉ざされた。
…今のはいったい何だったんだ? 誰もいないのにバスが停まって、運賃確認用の券が出てきた。
停車は、誰か乗る人がいると思った運転手さんの勘違い。あるいは、誰もいなくても一度は停まるシステムになった。
機械は誤作動。ただそれだけ。
無理にそう思い込み、窓の外へと顔を向けた。その時に、ちらと、後ろの方の座席がガラスに映り込んだ。
最後尾の席に見えたのはピンクの日傘。バスの中だということもお構いなしに、ベンチの時同様、上半身を隠すように差されている。…一瞬だけ見えた傘の下の部分には、ベンチの時とは違って、座る者の下半身などないというのに。
もう、外も窓も決して見ることなく俺は足元に視線を向けた。その状態で鞄を探り、財布から小銭を取り出す。
バスが駅前の停留所に停まったら脇目も振らずに降車する。そのためには確認時間がかかる定期ではなく、運賃きっちりの小銭が有効。
紙片と運賃表と小銭を見比べ、確認に確認を重ねた運賃。それを素早く運賃箱に投入するイメトレを頭の中で繰り返しながら、俺は、バスが一刻も早く終点のバス停に着いてくれることを強く祈った。
路線バス…完
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