路線バス

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路線バス

 バス通勤をしている。  アパートからバス停までは徒歩で三分。十五分程で最寄りの駅。そこから徒歩五分程の会社へというルートだ。  近所のバス停から駅までの間にある停留所は七つ。二分に一回程のペースで停まるが、朝は必ずどこにも乗客がいて、逆に夕方は乗る方はほぼおらず、客はもっぱら降りる側。  それが俺が知る限りの、この路線の通勤通学時間帯の状態だった。  そのバスに、期間限定で別の時間帯に乗ることになった。  業務の都合で暫く出勤時刻が変わる旨を告げられ、俺の通勤は行きも帰りも二時間遅れになった。  ラッシュ時から逸れているのでバスの車内は空いていて、席も選び放題座り放題。おまけに乗降客が少ないから、一つずつバス停に停まることがなくなった。  車内アナウンスで次のバス停の名前が告げられるが、降車希望の者がおらず、バス停にも人がいなければそこはスルー。  今までバス停に停まらないなんてことがなかったから、客がいないとこんなふうなのかと、ぼんやりと思っていた。  そんなある日。   「次は、OXー」  駅までのバス停は残り三つ。その地点で車内アナウンスが響いたが、俺以外にこれを聞いてる者はいない。つまり、バスに乗っているのは俺一人。  バス停に誰もいなけりゃスルーだな。  そう思い、チラと窓から外を窺うと、ベンチが置かれている辺りにピンク色が見えた。  バスの移動で位置が近くなると、それが傘だということが判った。  紫外線対策なのかな。日傘で覆われて、顔どころか上半身すらろくに見えないけれど、傘の色と足元の様子からして、座っているのは女の人らしい。  この時刻、ここのバス停はほぼスルー対象なんだけど、今日はお客がいるんだな。  またぼんやりとそんなことを考えている間にも、バスは停留所に近づく。けれど減速する様子はまるでない。  あれ? と思った時にはもう、バスは停留所を通りすぎていた。  運転手さん、今のお客さんを見逃した?  もしそうなら結構大ごとだ。教えた方がいいんだろうか。  そんな考えで立ち上がりかけたが、気になって振り返ったバス停のベンチに女の人は座ったままだ。  乗客じゃないんだろうか。たまたま具合が悪くなったとかで、バス停を承知でベンチに座ったんだろうか。
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