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「たっくん……あのね……」
藍柿の様子が変わった。
モジモジしている。
「私……たっくんの事が、ね。」
いきなりかよ?!
マジか。心の準備が。
「お、おい、藍柿。大丈夫か?」
でも。
ぼーっとした、上の空のような目。
顔は赤い。
今まで、こんな藍柿、見た事がない。
操り人形が頭に浮かんだ。
「す……」
違う。
直感的に気が付いた。
「す……」
「やめろ!」
気がつくと、叫んでいた。
選択肢は、3つ。
このまま告白されて、付き合うか。
告白だけ受けて夢心地になった後、キーホルダーを回収するか。
それとも?
「藍柿。渡したキーホルダー、返してくれ」
「……え、え?」
寝ぼけたように微笑んで小首を傾げる藍柿。
そうだ、違う。
嫌だ。こんなやり方で付き合うのは。
罪悪感に溺れたまま恋なんて出来ない。
「いいから、返せ。」
「い、嫌だよぉ。ねえたっくん、私ね、たっくんのこと」
「返せっつってんだろッ!!」
怒鳴った。
本気で、好きな人に怒鳴った。
胃が詰まるように苦しい。
「……どうしても?」
いいながら俯き、藍柿は素直にキーホルダーを渡した。
キーホルダーのピンクの星がまた光る。
今度は夢のアイテムなんかではなく、不気味な道具に見えた。
ピンク色が、黒く染まっていくような感覚に襲われる。
キーホルダーを受け取った瞬間、藍柿は膝が折れて、ばたりと倒れてしまった。
「おい、藍柿! しっかりしろ!」
なんてこった。
こんな事なら、もっと別のお願いを頼めばよかった……。
まだうつ伏せに倒れたままの藍柿。
行き交う人の視線が集まってきた。
……あれ?
俺を見る目が厳しい。
気のせいですかね、レディとジジィ。
「あ……あ?」
いや、マジだ。
俺が加害者だと思われている。
違うんだ!
誤解だ。確かに、俺のせいだけど。
変な事をしているわけじゃないッ!
騒ついて顔を見合わせる人々。
携帯を出している人も。
ああ、俺は全てを失った……。
「あれ~? たくみんだっ、キャハ!」
人混みが別の方向に騒ついていく。
嫌な予感しかしない。
あえて宣言しよう。
俺は、振り返らない。
そこにデぶ……んっんー、ふっくらとしたクラスの面倒な……んっんー? お上品な女性がいると知っていながら。
「ねーえ、聞いてんでしょ? あー、聞こえないフリしちゃって、たくみんの照れ屋さんっ。カワイイ~」
絶対に、振り返ってたまるか。
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