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花飾りのついたゴムがいい。
ゴムは意外と高く、一つで300円もした。
千円札一枚でやって来た俺にとっては、帰りのバス代も考えると結構ギリギリだ。
帰りのバス代が200円なので、残りは300円。
帰る途中で好きな人に会っても何も奢れない、強いて言うならパン一つギリギリの手持ちだ。
購入したゴムの入った紙袋を手にぶら下げて帰る。
なんだか、周囲の目線が痛い。
確かに、男が女モノの髪飾りの入った紙袋を持っているのも変だ。
これなら、リュックでも持って来れば良かった。
そう思った矢先。
ふと横を見ると、殴り書きのような癖字で金色の文字が刻まれた看板。
「(見ない店だな。)」
バスの時間が遅れるので、そう気にはしていなかったが、
気がつくと周りには誰もいなかった。
今の今まで人が30人くらい行き交っていた道に、誰の姿もない。
他の20店舗に近寄ると、自動ドアが開かない。
不気味な静かさ。
右、左、上、下。どこを見たって、変だ。鳥もアリもいない。
男である前に人間だ。
身震いがした。
バスに遅れるなんて言って小走りした汗がスッと引いた。
それでやっと、クラスで流行っている都市伝説が頭に蘇る。
「魔法使いの道具が売られてる、魔女の店」
「怪しい占い屋さん」
「幻の店」
「幸運をくれる天使のおうち」
「その店の名前は、『ばけねこのソノ』。」
化け猫の、園。
化猫ノ園。
沢山の噂がある、謎の店。
そう、目の前の急に現れたコレが、そうだ。
化猫ノ園、か。
魔法のアイテム? 幸運をくれる?
……モテる道具。
モテる道具は、果たして売っているのか?
の、覗くだけだ。店を覗いて、確認するだけ。何か起きる前にさっさと帰ろう。
ドアを開けるだけなら、害は無いはずだ。
「ちょっとだけ……。」
呟きながら、足は勝手に玄関口へと緊張気味に進んでいった。
いいか?
ちょっとだけだぞ。
僅かな期待に胸を膨らませ、期待いっぱいにドアノブに手を掛け。
「失礼しまーす」
開いた。
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