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次の紙も………適当で良いな。
あと一枚だ。頑張ろう。
「んー、僕あんまり霊とか信じてないんだよね」
「そう言う人に気付いてもらいたくて悪さする霊もいるって話だよ?」
「ははっ、まさか―――はい。書き終えたよ」
最後の一枚を美奈子の前に差し出す。彼女はざっと目を通すと、納得したように頷いた。
「うん、問題なし。いやー、悪いね。手間かけさせちゃって」
「良いって。母さんもこんな感じだし。今から市役所行ってくるよ」
「え、良いの?いやー、気の効く男って良いわぁ。智也私と結婚しない?」
「ポテチ口に詰め込みながら言うのやめてもらえない?」
どんだけ食い意地張ってんだよ。僕んだぞ。
さあて………、と腰をあげて軽く伸びる美奈子と共に玄関へ向かう。
美奈子は隣の自室に。僕は紙をもって市役所にだ。
「邪魔したね。あ、そうだ。今日帰ってきたらうちでご飯食べてきな。どうせまだ冷蔵庫の中何も入ってないだろ」
「本当?助かるよ」
「………最後に言っておくけど」
美奈子は急にトーンを落として耳元で呟いた。
「………ここが空き部屋だったとき、女の子の声がしたのはガチだから」
彼女はニヤリと笑った。
※
市役所に早歩きで僕は向かう。全く姉さんはなぜあのタイミングで僕を怖がらせに来るんだろう。しかもガチトーンで。
「………寒」
ほどけかけたマフラーをもう一度かけ直した。
――――――この時は思いもなかった。
すれ違った向日葵を持つマスクの少女が。
僕が気づかずに通りすぎた塀のわずかな隙間から僕を見る影が。
公衆電話から僕を見つめる少女が。
ビル屋上から僕を見下ろすドレス姿の少女が。
僕の日常を大きく変えるなど、本当に思いもしなかった。
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