永遠の霧

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蝉さえも黙る暑い夏。 ビーチは親子連れやカップル、威勢のいい学生グループであふれていた。 遠目に見ればまっすぐ歩くことも不可能に見えるそこは、明らかにキャパシティオーバーである。 青々ときらめく海。 賑やか且つ華やかな砂浜。 それとはまるで正反対な場所にコテージを設けている――――人混みに疲れた人が、ほっと息を吐けるように、と。 願いを込めて建てたのだが… 実の所を言えば、人目を嫌い過ぎた。 天気のいい日ですら霧が出ることがある山の中。お陰で集客は最悪。 全力でいいところを探すなら、夏でも少し涼しい、ということくらい。 海の近くでひとり静かに暮らす、というのがかつての夢だったのだが、理想とは遥かかけ離れてしまっている。 テラスに出ると、木々の隙間から【人】という名の微生物が無数に浮かんだ海が見えた。 光と影はいったいどこで区切られているのか。 海面に反射した太陽光も、コテージまではほとんど届かない。 勿論、そこで走り回る無邪気な子供たちの声もまるで聞こえて来ない。 今日も一人。 誰もいない木の家で、平和に過ごす――――予定だった。
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