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――――すみませーん――――
微かに聞こえたのは、久方ぶりに聞く他人の肉声。
空耳かとも思えた。
しかし声は幻聴などではなく、数回繰り返し叫ぶように続く。
「すみませーん、泊まりたいんですけどーっ」
「あれ…?」
一瞬間を置き、自分の耳を疑いながらも玄関の方へ向かう。
店主を呼ぶ声は、男のそれだった。
しかし、部屋を抜けて玄関口に通ずる扉の前まで来ると、微かに女の声も聞こえる。
迷い込んだカップルだろうか?
襖に手をかける。
「誰も出てこないじゃん。ホントに泊まれるの?」
「あたしの情報力舐めてる?絶対泊まれる」
「ったく。何処からその自信が湧いてくるんだか」
恐る恐る、襖をずらしていく…
「アナタが言ったんだよ?静かな『とこがいい』って」
髪の毛で隠れた顔は見えないが、すらりと細長い女性。
「いや、言ったけどさぁ」
その横で苦笑いを浮かべる、欧風な顔つきの男性。
「だよねぇ?なのに文句がある?」
「喧嘩腰になるなよ」
「…っ」
ふたりが彼の存在に気づき視線を移す――――その風貌に、思わず息をのんだ。
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