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連れていた男性が夜遅く、衣類や髪の毛を濡らして疲れ気味の顔で帰ってくるまでの間、彼と彼女は彼が描いた夢の話で盛り上がった。
「人があふれた鬱々とした現実から離れてね、まるで非現実の一部に入り込んだような感覚が味わえる、そんな時間を過ごす場所を創りたかったんだ」
「非現実?」
「そう、ファンタジーのような―――いやファンタジーでなくともいいんだ。小説や漫画みたいな、本来ありえない世界」
「自分が中心の世界」
「それそれ」
まあ現実はこんなもんだけどね。苦笑し頭を掻く。
「そんなことないですよ」
地震などまるでない彼に、彼女は笑った。
「確かに目立たないかもしれない。けど、だからこそ何かを始めるにはピッタリじゃないですか。それに、数百メートルしか離れないあの雑踏とここじゃ、それこそ現実と非現実のように空気が違う」
音のない山中。
見えるはずのない男性の姿でも探しているのだろうか、恐らく音で溢れかえっているであろう人混みをテラス越しに遠く見つめている。
「オーナーさんなら、どんな非現実に入り込みたいですか?」
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